3. 普通のBODは都市河川の水質指標としては不適切と理解すべし

タマちゃんワースト順位発表においては、鶴見川水系のどの部分が、全国のいくつの河川の中で比較されてきたのか、かなり明らかになったと思います。ワースト論議には、これとはまた別の大きな疑問があります。鶴見川下流部の水質指標として、普通のBODを使用するのは不適切かもしれないのです。

国土交通省が発表する、河川水質のワーストランキングの指標とされているBOD(Biochemical Oxygen Demand 生物化学的酸素要求量)は、測定対象となる水を一定時間・一定温度のもとに置き、その間に減少する溶存酸素の量で、水中の有機物の濃度の指標とするものです。有機物が多ければ、それを摂取して酸素呼吸で分解する微生物の作用はそれだけ大きなものとなり、減少する酸素の量で、水中の有機物の含有量が表されると考えます。BODは、微生物が呼吸によって分解することのできる水中の有機物量に対応すると考えるわけです。家庭のキッチンやトイレに由来する有機物が河川に流入すれば河川水のBODは高くなります。有機物濃度の高い水は、低い水より水質が悪いと考えるなら、BODの高い水は低い水より、水質が悪いといえそうです。

ただし、ここに問題あり。通常の方式で測定されるBODの値が高い水は、低い水よりも決まって有機物の濃度が高いとは限らないという事情があります。たとえば下水処理水が大量に流入する河川水の示すBODは、微生物が有機物を呼吸によって分解する際に吸収される酸素に対応するBOD(C-BOD)と、水中のアンモニアイオン、亜硝酸イオンが、硝化細菌と呼ばれる一群の細菌によって酸化され、それぞれ亜硝酸、硝酸に変化する際に無機的に消費されるBOD(N-BOD)の総和となるはずで、BODの実測値が高いからといって直ちに有機物が多い(C-BODが高い)とは限らないということがわかります。下水処理水が大量に流入する都市の河川水には多量の亜硝酸や硝化菌が含まれているため、実測されるBODの内のかなりの部分が、実はC-BODではなくて、N-BODということになります。都市河川が高いBODを示したとしても、それがそのまま有機物の含有量、有機物による汚染の度合いを示すというものではないのです。

ここで大きな懸案は、N-BODに対応する窒素成分の存在と、C-BODに対応する有機物成分の存在がそれぞれ水質にどのような影響を与えているのか、十分に明確でないことかと思われます。水道水源として理想的な水質を求めるのであれば、両者とも少ない方が良いに決まっていると思われます。しかし生物多様性を支える水というような視点でみれば別の評価も可能です。通常のBOD値で比較すると<汚染度>がかなり高いと評価される鶴見川下流部には、ハゼやウナギやアユやテナガエビなど生きものたちが豊にくらしています。この区間のBODはN-BODの成分が大変高い値となっているはずであり、これから類推すれば、通常のBODとしては同じ水質でも、魚類の生息などには、状況によってはN-BODの比率の高い水の方が<水質が良い>などということもあり得るのではないか、などとも想像されるからです。

以上の検討から導かれる結論は以下です。鶴見川のような都市河川の水質判定にあたって、普通のBODだけを重視する方式は見直されて良いと思います。具体的には、C-BOD、N-BODの構成比を明示した指標に転じてゆくのが良いと思われます。その転換とともに、C-BOD、N-BODの比率と、魚類や植物などの生息・繁殖の関係など、詳細に調査されるべき課題がたくさんあると思われます。

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